大学院教育発達科学研究科・教育学部
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: 教育科学専攻 :
博士論文提出者の声
以下に、本専攻での課程博士の学位取得者からのメッセージを掲載するので、参考にして頂きたい。
●課程博士を目指すみなさんへ
私が博士課程後期課程に進学した年(1996年度)から、博士課程修了時(ないしその後3 年以内)での博士号(課程博士)取得を目的としたプログラムが試行されました。すでに理 工系では定着している博士課程修了=博士学位を文科系でも一般化していこうというものです。 このプログラム作成の過程で、プログラムに関する教員・院生の有志による意見交流会や、 学科会からのプログラムの目的・概要等の説明会などが行われました。また、院生自治会内で 「過程博士取得に関する諮問委員会」が結成され、私はその委員長になりました。学位請求論 文提出の具体的資格(学会誌掲載論文数、学部紀要を学会誌扱いするか否かetc.)、論文執 筆のための具体的指導は?etc.が当時の委員会の中心的課題でした。 委員長に就任したこともあって、私は「博士課程終了時での学位取得をめざそう」と強く 決意。その決意には、「学科長との交渉でも、代表は『博士号から遥か遠い院生』ではなく 『博士号取得に極めて近い院生』でなければカッコつかないなあ」という見栄?も秘められて いたのです。 さて、試行錯誤的に始まったプログラム。大切なことは、プログラムを上手く「利用」す ること。端的に言えば、「プログラム修了=学位請求論文提出」となるためのプログラムです。 それは、第1に、博士論文執筆の「進行の目安」として、プログラムの各段階を経過すると いうこと。そして、第2に、出来れば第3段階修了時には学会誌投稿を済ませておくという こと(これが最も重要な点)。学会誌投稿→査読→掲載の可否、というプロセスを経験するこ とは、その道のオーソリティーから学術的評価を受けると言うことです。学会誌への論文掲 載は、自分がその道で通用する研究力量が備わったかどうかのメルクマールとなります。少 なくとも私にとって、このプログラムは、「学会誌掲載」まで至らなければ、あるいはその直 前で足踏みしているのであれば効力を持たないものでした。換言すれば、プログラムがあっ たことによって、自らの回避できない課題として学会誌への投稿・掲載決定を位置づけること ができたのです。もう一つ、このプログラム「利点」。それは、各段階でのコロキュームや学位請求論文提出前 のインフォーマルな試問など、指導教官を含む複数の教官と自分の研究のみについて議論する 機会があることです。とりわけ、研究方法論についての議論を率直にできたことが大きな収穫 でした。私が在学中より大学教員の多忙化はどんどんすすみ、複数の教員の日程調整をしてこ のような議論の機会を設定することはなかなか困難でした。しかしながら、プログラムには教 員による院生への指導が明記されており、そのおかげで?よい機会を得ることができたのです。 私はD4の9月に学位請求論文提出、その同時期に就職が決定しました。もっとも、論文 提出は当初の「決意」から1年遅れたことになりますけれども。 最後に一言。現在、国立大学の独立行政法人化、教育養成系学部の改組問題と職場自体がこ の先どうなるのか五里霧中の状態です。もちろん、講義の準備や学生指導などやり甲斐はあり ます。しかしながら、博論執筆のように集中力を要する仕事と教育活動との両立は並大抵のこ とではないのが現状。今の環境と大きく異なることは、日頃から方法論の議論ができる身近な院 生集団・ゼミの存在です。「院生だからこそ可能であった」というのが正直な想いです。みなさん、 時間はかかっても立ち止まってもいいのです。目標達成に向かって切磋琢磨してください。
●「博士論文」の執筆について
私は、1996年4月博士課程後期課程に進学し、2002年1月に「博士(教育学)」の学位を 取得しました。実際に博士論文を脱稿し原稿を提出したのはその前年の5月でしたので、実質 的には約5年の時間をかけて博士論文の執筆を行ったことになります。 博士論文作成の過程 1996年度に博士後期課程に進学した私たちの学年は、現行の「課程博士論文指導体制」が 整備された最初の学年にあたります。実際に運用しながら改訂が加えられてきた「指導体制」 ですので、現在の制度とは多少異なるかもしれませんが、大まかな過程は次のようでした。入 学直後の5月に第I階にあたる「研究計画」を提出、その半年から1年後に第II 段階にあた る「博士論文執筆計画」を提出した後、第III 段階である「博士論文提出資格審査」を受けます。 この資格審査の合格判定の判定が得られるまで最短で2年、ここから本格的な博士論文の執筆 の段階を迎えることになります。 資格審査に合格の後は、いよいよ博士学位請求論文(仮製本版)の提出(第IV 段階)になりま す。最短で提出した場合には後期課程3年の9月末ですが、多くの場合はそれ以上の時間が必 要となるでしょう。その後、第V段階にあたる口述審査とその合否判定を受け、第VI 段階とし て博士の学位が授与されます。これが、名古屋大学教育発達科学研究科における博士学位取得 の「いちおうの」過程です。 実際には、この通りに進行することはまれであろうと思われます。私の場合、先に記したよ うに第IV段階の仮製本版博士論文の提出までに5年、そこから学位の取得までに、審査委員か らの修正要求を受けての大幅な加筆修正、本製本版の作成と提出、終口述審査などさらに8ヶ 月の時間が必要でした。 論文作成上のアドバイス 以上のような過程を経て博士論文を作成するのですが、これから博士論文(「博論」)の執筆 を迎えるみなさんに、自分の経験を振り返っていくつかのアドバイスを記しておきます。 (1) こまめに研究をまとめ、文章化し、発表を重ねる 多くの先学から学び自らの研究の糧とするのは当然のことですが、研究はインプットばかりで は前に進みません。自分の言葉で考えを文章にまとめ、論文や学会発表の形でアウトプットし、 積極的に蓄積することが後に役立ってきます。 (2)まとめる段階では先輩の研究技法をぬすみ、仕上げる段階では後輩の手を借りる 研究科の図書館には、本製本によって提出された博士学位請求論文が配架されています。先輩の研究から学ぶのであれば、公刊された学術図書のみでなく、実際に提出された学位請求論 文に目を通し、そこにちりばめられた研究の技法をぬすみ出すとよいでしょう。また仕上げの 段階では、校正作業や編集作業に後輩の手を借りたいものです。後輩の協力は、自分の文章の 癖を修正したり、思わぬミスを未然に防ぐのに力となります。一方で、後輩本人にも後の博論 作成の参考になるという利点もあります。もちろん自分が先輩から協力を依頼されたら、自分 のためにも協力させてもらうといいでしょう。 (3) 博論の水準・基準は、自分が決める 自己の研究に対する確固たる強い信念がある場合は別にして、博士論文の作成で常につきまと うのは、「自分の研究は、博士の学位を取得する水準に達しているだろうか」という自問です。 時には、この疑問が研究を阻害する要因となることがあります。外部に研究評価の基準を求め た場合、そのボーダーラインは次第に高く吊り上がり、いつのまにか自分では飛び越せないと 思えるほどに高度な研究水準を要求するようになるからです。「この研究領域では自分が第一 人者であり、研究の水準、博士学位取得の基準は自ら設定する」くらいの信念が必要でしょう。 必要以上に水準を高みに上げて、到達できないでは本末転倒となります。 博士の学位は「足の裏についた米粒」? 若手研究者の間では、「博士の学位は足の裏についた米粒」という表現がしばしば聞かれま す。これは、「学位は、無ければないで困ることはないが、取っておかないと気が落ち着かな い」という意味であると解釈されています。確かに、学位の取得によって自動的に研究者への 道が保証されるわけでも、直接的に経済的恩恵を受けるわけでもありません。けれども、現在 の大学等における研究職への就職を考える場合、博士学位の取得は避けて通れない過程であり、 若手研究者に限って言えば、国際的な見地からみても自立した研究者であることの最低の身分 証明書であるといえます。 修士論文に全力を傾注してようやく博士後期課程に進学したとき、博士論文は確かに大きく 見えるものです。けれども、自分の内に「博論」の虚像を住まわせることなく、他者の批判に 耳を傾けつつ自分のスタンスを貫けば、成果はきちんとついてくるでしょう。博士の学位は、 「授与」されるのを待つものではなく、自らの意志で「取得」するものといえるでしょう。
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