2018.4.30 12:20改訂
 
医療における質的研究のためのプロトコル作成セミナー・ワークショップ


 質的臨床研究、質的医療専門職教育研究(医学教育研究、歯学教育研究、看護学教育研究、薬学教育研究など)を実施して論文執筆をめざすために...

<このワークショップの開始のきっかけ>

  SCAT のページでお知らせしていますように、2015.7.10-11(土日) に鹿児島市で開催された「第34回日本歯科医学教育学会学術大会」の前日に開催された「第4回歯科医学教育研究を議論する研究集会(2015.7.9 (金))」で、同会からのご依頼により、「質的研究に関するセミナーと質的歯学教育研究のプロトコル作成ワークショップ」をさせて頂きました.

 それまで、SCAT のワークショップは何十回も開催してきましたが、医療系のための「質的研究プロトコル作成のワークショップ」を開催するのは初めてでした.それにも関わらず、自分が開催に慣れている SCAT のワークショップではなくプロトコル作成のワーク ショップをしたのには理由があります.それはまず、SCAT のワークショップをするには時間が短すぎたこと、そして参加予定者の中にはすでに SCAT のワークショップに参加した方が何人もいらしたことです.

 初めてのこ とでしたので、開催までは少し不安がありましたが、日が近づくと逆に不安はまったくなくなり、鹿児島に向かう旅程でも、そしてワーク ショップの場に立ったときも、何の不安も感じませんでした.むしろ、「きっと良いワークショップができる」という予感のようなものさえありました.実際に開始して みると、大変ありがたいことに、参加者の方々の反応も非常に良く、おかげさまで、みなさまに満足して頂けるワークショップができたという手応えを感 じることができました.


 ところでそのワークショップの終了後に、パソコンなどの片付けをしていると、参加者のお一人の歯学部教授の先生が私のところに来られ、きわめて率直なご様子で、そして明るい表情で、次のようにおっしゃいました.

 「これまで、ワークショップというものには、
それこそ数え切れないほど参加してきたけれど、今回のワークショップは、参加して本当に良かった.」

 私はこれを聴いて、大変嬉しく思いました.なにより、その先生のご様子 や口調からは、社交辞令のようなものは全く感じられず、むしろ、長く待っていたものに出会えて良かったという飾らないお気持ちが伝わってきました.私はこ の先生のお言葉に、このワークショップを企画し実施して良かったと,
あらためて感じることができました.

 しかしそれと同時に、こういうワークショップは、開催すればこんなふうに喜ばれるのに、これまで全く開催されてこなかったのだということに気がつき ました. そもそも私自身が、医療系の方々を対象にした、たくさんの「質的研究と SCAT のセミナー・ワークショップ」を開催してきましたが、それらを学んだ方にとっては、次に(あるいは本当はその前に)、質的な研究全体をどう計画・デザインするのかが重要です.しかも量的な臨床研究ですと、研究開始前 にプロトコルを公表することが奨励されています.質的な研究では、開始前のプロトコルの公表はそれほど求められてはいないとしても、倫理審査にプロトコルが必要ですので、研究を開始するにはプロトコルが書けなけれ ばなりません.そのため、これまでの質的研究と SCAT のセミナー・ワークショップだけでは不十分だと感じていました.したがって、医療系における質的研究 の普及と発展のためには、このようなワークショップが開催される必要があると強く感じました.それで、その後、このことについて考えていました.


 しかし、考えているだけでは何も変わりません.それで、「だまって待っ ていても、それを誰かが開催してくれる見込みは無いのだから、それなら、みなさまのご意見をうかがいながら自分で提供してはどう か」と考えるに至りました.そしてそれは、医療には全く門外漢 である私を受け入れて下さって、いろいろな仕事や役目を与えて下さっている医療系の方々への、ほんの少しですがご恩返しになるのではないかとも考えました.なお、このとき の鹿児島でのワークショップでも、ワークショップの「質的歯学教育研究のための」というタイトルに反して、「質的歯科臨床研究のためのプロトコル」を作成 したグループがいくつかありました.このことから、求められているのは、「質的医療専門職教育研究のためのプロトコル作成ワークショップ」だけでなく、そ れを含む形で、「医療における質的研究」のためのプロトコル作成ワークショップなのだと感じました.したがって、開催するワークショップは、そのようなも のになるべきだと考えました.

<ワークショップ開催のための大谷の専門的バックグラウンド>

 ところで大谷は、教育研究者であり質的研究者であって、医療のどの領域においても専門的訓練を受けていませんし,何の資格も有していません.

 しかし、医学教育研究や臨床研究には、1998年頃から関わりを持たせて頂くようになりました.とくに、
2009年か ら参加させて頂いている慈恵医大の「プライマリケアのための臨床研究者育成プログラム」 で、質的臨床研究のプロトコル作成とその研究実施の指導を経験してきています.このプログラムの参加者は、量的な臨床研究、疫学研究のプロトコル作成につ いての講義の他、大谷による質的研究とそのプロトコル作成についての講義を、まず e-learningで学びます.そして、それらの学習を基盤として、自分でいくつかのプロトコルを作成して、face to face のワークショップで発表し、相互評価をしたり指導委員から指導を受けたりします.その後、その中のひとつを実際に実施し、その際にも継続して種々の指導を 受けます.

 つまり大谷は、質的な臨床研究のプロトコル作成とその実施について、2018年現在で9年以上の指導の経験を有しています.正直なところ、この時の鹿児島でのワークショップも、私にとって初めてのことであったにも関わらず、初めてという気持ちが
まったくせず、むしろ SCAT のワークショップをするときよりずっと緊張がありませんでした.それ で、なぜそうなのかを省察してみましたら、慈恵医大での上記のような経験を有しているためだと自分で気づいたのです.(じつは、SCAT のワークショップは、うまく分析できないグループが無いか、問題があった場合にどの時点でどのように介入すべきか、など、かなり心配事が多く、毎回ひとつも気が抜けないのです.(^^;)).

<その後の開催>

 このワークショップ に対するご要望は多く,その後すでに何回かの実施を通して,このワークショップをブラッシュアップしてきました.上記の第1回目を含み,現時点までのもの と予定されているものを上げます.(福島県立医大、ホーチミン市医科大学、島根大学医学部、富山大学医学部、宮崎大学医学部でのワークショップのように,遠隔地(私から見て)では SCAT のワークショップとセットで開催する場合もあります.)

 これらの実施を通して私が驚いていることがあります.それは,これらのワークショップの中で,実際に,ご自分たちの研究のためのプロトコルを書いてしまった参加者がたくさんいらっしゃるということです.たとえば,2016.3.5(土)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科でのワークショップでは,5つのグループのうちの2つで,そこで書いたプロトコルにもとづいて実際に研究を開始するとおっしゃっていましたし,2016.2.14(日) 名古屋大学大学院医学系研究科総合診療医学でのワークショップでは,ある参加者の博士論文のためのプロトコルが書けたと,講座のみなさんで喜んで下さっていました.
 ワークショップ講師としては,このワークショップは,あくまでプロトコル作成の「疑似体験」をするもので,実際のプロトコルはそれぞれの参加者がワーク ショップ参加後に書くべきものだと考えていたのですが,どうも,このワークショップは,かなり「模擬性」や「疑似性」が低く,むしろ「現実性」や「実用 性」が高いために,その場でご自分の,あるいはご自分たちの研究のためのプロトコルが書けてしまう場合もあるのだと気づいた次第です.(このことには我な がら驚いています.「このワークショップ,誰が考えたんだろう?」って思います.(^_^)

 なおその後、このワークショップに出たら、「査読者からの修正依頼に適切に応えて論文が採録された」「医学部の倫理審査委員会に出した医学教育の研究プロトコルがはじめて一度で通ってしまった」などの情報も頂いていて、驚いています.(^_^)/


<ワークショップの進め方>

 このワークショップは、次の4部構成で進めています.

(1) 医療や医療者教育における質的研究についての講義(90分-2時間)

 質的研究の全体についてと、医療や医療専門職教育における質的研究で重要な点について理解して頂くために,スライドと配布資料を使ってお話しします.(質的研究とSCAT のセミナー・ワークショップのときの質的研究の講義をほぼ同じ内容です.)

(2) 医療や医療者教育における質的研究プロトコルの書き方についての講義
(30分-1時間)

 医療における量的研究プロトコルの書き方と比較しながら、医療における質的研究プロトコルの書き方について、解説します.
(30分-1時間)

(3) 参加者から自分の研究したいテーマを出して、適切な数が集まったところでグループに分かれる.(その後、アイスブレーキングを含めてグループで昼食)

(4) 参加者によるプロトコル作成のグループワークと相互評価
(4時間-5時間)

 事前アンケートでたずねておいた研究テーマや研究アプローチへの参加者 の関心によって、参加者は数名ずつのグループに分かれ、概念モデルなどを書きながら、グループごとの仮の Research Question (研究テーマ)を設定します.その後、こちらから提供したテンプ レートにしたがって、プロトコルを作成して頂きます.この方法では、テンプレートに埋め込んでいくために、比較的短時間でスムーズにプロトコルが作成でき ます.最後 に、グループごとに発表して相互評価をして頂くとともに、講師からもコメントを致します.

(5) 質的研究に関する事前アンケートへの回答
(30分-1時間)

 ワークショップ終了後に時間が取れれば、質的研究に関する事前アンケートでの疑問・質問にお答えします.事前アンケートに書かれた疑問・質問の多くは、このセミナー・ワークショップ 全体を通してご自分で解決なさることも多いのですが、そうでない場合もありますし、質的研究に関する本質的な疑問である場合もありますので、丁寧に取り上げます(質的研究とSCAT のセミナー・ワークショップでも、これを重要な機会と位置づけています
).

<ワークショップに要する時間>


 
午前に質的研究の講義、午後にプロトコル作成の講義とグループワークにして、1日(例えばグループ数が少なければ 9:00-17:00,多ければ 9:30-18:00等)のセミナー・ワークショップにするのが適切です.

<ワークショップの最大参加人数>

 このワークショップは、最大 30 名くらいで実施できます.これより多くなりますとグループ数が多くなりすぎ、グループワーク中に講師がグループの間を周りながらコメントさ せて頂いたり質問を受けさせて頂いたりする機会が少なくなりすぎると思います.また最後の相互発表・評価に時間が取られすぎてしまいます.

 最少人数はとくにありません.

<ワークショップに必要なもの>

 必要なものは、

・講師用:プロジェクタとスクリーン(パソコン,ポインター等は持参します.)
・各グループ用:各グループ毎に、できれば a.ホワイトボード、b.ホワイトボードマーカー、c.ポストイット、d.パソコン、e.プロジェクタ、g.スクリーン(スクリーンは白い壁やホワイトボードで代用可)です.

 データで提供したテンプレートにプロトコルをまとめるためには、パソコンがあった方が便利です.また、たとえ仮のプロトコルの作成でも、きちんとbackground search をしながら作成すべきですから(これが非常に重要なのです!!)、各グループのパソコンはインターネットに接続できる必要があります.(どうしても接続できなければ各参加者のスマホなどで代用することもできます.)
 ただし、
d.パソコン、e.プロジェクタ、g.スクリーンは、どうしても無理で、各グループがホワイトボードが使えるなら、ホワイトボードで作業と発表をすることも考えられます.その場合、バックグラウンドサーチも、現在ではみなさんがスマホを持っていて、普段からそれ で医学論文を検索したり読んだりしていらっしゃるようですので、それでもかまいません.

 ワークショップについてのご説明は以上です.

 開催を希望なさる方、機関、団体等がおありでしたら、お気軽にご相談下さいますようお願い致します.ご質問もお気軽にお送りください.お待ちしています.

名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 教授
名古屋大学 アジア共創教育研究機構 教授
附属高大接続研究センター長
大谷 尚(おおたに たかし)
otani[at]nagoya-u.jp ([at] を @ にかえて下さい)


 
 以下はご参考までに...

<大谷の医療系での経験等>

 上に、医療系の専門的訓練は受けていないと書きました.しかし以下のような経験をさせて頂いてきています.参考になさってください.

医療系大学・大学院での非常勤講師等

医療系の論文等の執筆
医療系での講演・ワークショップ等(予定を含みます)
医学・医療関係の委員等
過去と現在の医療系大学院指導生と大学院ゼミ履修者・参加者


 以上です.

(このページの最初のイラストは、「かわいいフリー素材集 いらすとや」http://www.irasutoya.com のものを使わせて頂きました.)