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閲覧者へのメッセージ

松田武雄(研究代表者)

2011年度から、科学研究費(基盤研究A)を得て、私を研究代表者とする「コミュニティ・ガバナンスと社会教育福祉システムの構築に関する欧米とアジアの比較研究」を開始しました。このプロジェクトは、2011年度まで行う予定であった「社会教育・生涯学習の再編とソーシャル・キャピタルに関する実証的研究」(科学研究費(基盤研究B))の後継プロジェクトです。

後者の研究は2011年度までの4年間のプロジェクトでしたが、幸い科学研究費(基盤研究A)が採択されましたので、2010年度までで終了し、そのまとめを2012年3月に『社会教育・生涯学習の再編とソーシャル・キャピタル』という著書として刊行しました(大学教育出版)。



基本的な問題意識は、コミュニティ(地域社会)において、社会教育・生涯学習を通じていかにソーシャル・キャピタルを形成することができるのか、逆にソーシャル・キャピタルを形成することができるような社会教育・生涯学習はどのように再構築できるのか、という点にあり、この問題意識は現在のプロジェクトにも引き継がれています。


現在の国や自治体の財政危機のもとで、社会教育・生涯学習は行政的に後退を余儀なくされています。社会教育職員や予算の削減、社会教育施設の廃止、指定管理者制度の導入に伴う混乱、社会教育(生涯学習)行政の教育委員会から首長部局への移管など、社会教育・生涯学習の行政は戦後最大の危機を迎えていると言ってよいでしょう。


しかし、日本の社会教育・生涯学習は、あまりにも行政に依存し過ぎてきたことも確かです。ヨ−ロッパの多くの国々では、市民が主体となった民衆教育あるいは成人教育が発展し、それに対して行政が支援するという歴史的な関係性がつくられてきました。日本でも、最近ようやく市民が主体となり行政との協働関係を構築するという有り様がみられるようになってきました。


今回のプロジェクト研究では、コミュニティにおける市民のガバナンスを基盤に、社会教育と福祉を統合した社会教育福祉という領域を構想して、現代のリスク社会、貧困社会に抗することができるような社会教育(社会教育福祉)のシステムを構築するためにどうすれば良いのか、という問題意識を持って取り組んでいます。そのために、日本、韓国、中国、台湾、中央アジア、アメリカ、ドイツ、スウェーデン、イギリス、アイルランドという10カ国の比較研究を行い、社会教育福祉のイメージをふくらませていきたいと考えています。実際、アジア諸国では、社会教育と福祉が融合したような活動が行われている地域がありますし、ドイツや北欧では、社会教育学という学問領域が困難を抱えた人達に対して教育的福祉的な支援を行っています。


海外の多様な動向を参照しながら、身近な地域からソーシャル・キャピタルを培っていけるような社会教育福祉システムを構想し、新たな社会教育・生涯学習の理論的な枠組みを構築していくことが私達の最終的な目標です。そのために、研究はもとより、多様な形で情報を発信できればと思っています。


研究代表者 松田武雄

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