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学部 生涯教育開発コース 選必Ⅱ2単位 秋学期火3
担当教員 横山
Theory of Technical Education 1
科目名 EDUED3141J 技術教育学講義Ⅰ
対象学年 2年以上 他学部受講
時間割コード 0225411
概要/Outline 本講義では、日本における技術・職業教育の成立と展開に即して、技術・教育の基本的な問題をとりあげて学習することを目的としている。毎回、15分程度のビデオをみてもらい、それをもとに講義・討論などをおこなう。資料を毎回配布するので、次回までに必ず目を通してくることが要求される。また、愛知総合工科高校(名古屋市立工芸高校かどちらか)の見学を12月初旬に予定している。
We will study basic principal of Technical and Vocational education/training.
到達目標/Objectives 小学校の図画工作科の工作、中学校技術家庭科の技術領域、高等学校の専門教育、専門学校、高等教育機関での職業教育、公共職業訓練、企業内教育の具体的な様相を学び、今日的な課題を考えることを目標にしている。
We will study basic principal of Technical and Vocational Education in Japan. For example,
Special education in High school,
Vocational Colleges, Public vocational training institutions,
In-company training and so on.
授業の内容/Contents 1.工作教育・技術科教育
2.後期中等教育における専門教育
3.専修学校における教育
4.公共職業訓練の教育・訓練
5. 企業内教育(以下に展開する内容を三回にわけて講義する予定)
我が国における企業内教育の歴史的展開
企業がより良い財やサービスを社会に提供し、ゴーイング・コンサーンしていくためには、経営の三要素である「人」「物」「金」の内、「人」の育成が最も重要である。なぜなら、新しい価値を生み出していくためには、経営の主体である「人」が他の二つの要素に目的的にはたらきかけなければならないからである。
今回の3回分の講義は、我が国において、明治期よりどのような企業内教育が行われてきたのかを、上記企業内教育の目的に沿って歴史的に検証してみる。なお、第1回で検討するように、企業内教育については様々な言い方がある。ここでは、ひとまず、それらを総称して「企業内教育」として論じていくことにする。
・企業内教育とは何か
 企業内教育とは何かを、類似語である「教育」「訓練」「能力開発」「人的資源開発」「研修」「キャリア開発」などの言葉の意味を、その生まれてきた歴史を辿りながら考えてみる。なお、企業内教育は、公教育と異なり、企業がその目的に沿った人材を育成するため、極めて個別的であり、かつ社会経済状況に影響される。それは端的には「企業が求める人材像」になって表れる。
以下は、それに従い、明治期以降の「企業の求める人材像」というテーマで検討していく。
・明治期の職工養成
 明治政府は殖産興業政策の下、官業主導で産業を興し、それを民間に払い下げすることになる。西欧の列強に対応していくためには、政府は早期に産業を育成しなければばらなかった。それは現場作業を担う職工の養成を必要とするが、そのための学校教育は十分とは言えず企業がその代わりを担わなければならなかった。当時の職工は、金銭の浪費、親分子分の関係、教養がない、などの特色がある反面、独立自尊の精神の気風がある、などの特徴があったといわれる。そこで企業は、「善良なる職工」の養成に取り掛かる。したがって、仕事に直接的に関係する能力ではなく、教養を施し、資本家に「従順」な職工を育成することを第一の目的とした。それは計画的に作業が行える、新しい労働者の育成をも意味した。
・紡績産業における職工の養成
 明治から昭和にかけての産業は紡績が中心であった。そこでは全国各地から年少の女子工員を募集して、彼女たちを何よりも紡績女工として育成することが急務になる。そこで各企業は、まず企業内に小学校を設置し、公教育を行う傍ら、寮生活を通じて生け花、茶道などの教養を身に付けさせることを行う(戦後も、紡績工場では短大など設けて教養教育を施した)。この典型的な企業事例が鐘淵紡績である。
 鐘紡では、同時にアメリカのテイラーが発案した科学的管理法を導入する。しかし、合理的な管理法も温情主義化では「精神的操業法」の様相を見せる。福祉施設も充実させて,修身、読み書き、裁縫などを教える。企業内教育といえども、教養教育を施し、教養を付けることが何よりも先立つ能力であった。
(なお、時間があれば、実業補習学校の設置についても触れておく。産業の興隆とともに職工の「品性」と高度な技能も要請されるようになる。しかし企業だけでは十分な要請が行われず、また、職工養成は喫緊の課題でもあった。そこで明治26年に政府は「実業補習学校規定」を公布し、職工を企業の労働者のみならず「国家の労働者」として教育するようになる。
しかし、この学校は小学校で夜間に行われ、しかも農業が多く十分な学習効果を得ることが出来ず、国が主体となった修養機関に変身し、昭和10年には「働きながら学ぶことの必要性が社会に認識されるにいたった」ことと、国防のために「青年学校令」が公布され、その幕を閉じ、それに代わり、新しく青年学校が全国各地に設置され、昭和14年には男子は義務制になる。終戦に伴い青年学校はなくなる。)
・戦前の職工養成
 ここでは特に東洋レーヨンの事例を取り上げる。この会社では企業経営を円滑に行うために精神面の教育を重要視し、「勤勉質素」「孝養への尽力」「心身の修養」などを育成するとともに、職務については「出火の予防防止」「職務への奨励」のほか、「機械設備や作業の改良考案」等の職務に必要な能力を育成し、それを表彰する。戦時下では「性温厚機械改良考案に努力」「性温厚にして貯蓄神に富む」「生温厚能く姉弟を扶く」などが評されるようになり、「嫁にやるならレーヨンの青年に、また嫁を貰うならレーヨンの娘を」といわれるようになる。
 また、男子の職工については、製造業では高度な技能の必要性から、各企業は学校を設けてその養成を行う。ここでは三菱や川崎造船などの事例に簡単に触れておく。
・企業の民主的経営に沿った人材育成
 戦後はGHQによって、我が国は急激に民主国家に変遷する。企業内教育もそれに呼応して、アメリカからTWI(Training Within Industry)などの定型教育が導入され、企業目的に沿った合理的な人材育成が行われるようになる。また、国においてもJST(Jinjiin Supervisory Training)などが普及するようになる。併せて、各製造業においても労働基準法の基で技能養成制度(養成工)の育成に力を入れるようになる。しかし、この制度は、高等学校の進学率の向上とともに、中学校卒業者の入校希望者が激減して、昭和40年代になって閉鎖する企業が多くなる(今日では、トヨタやデンソーなど、わずか4社程度にすぎない)。
なお、労働基準法(昭和22年制定)の下で行ってきた技能養成は、その趣旨に鑑み、昭和33年に職業訓練法にとって代わり、昭和44年には職業能力開発促進法になり、今日に至っている。
・職能等級制度とキャリア開発
 昭和30年代に入り、同31年版『経済白書』は「もはや戦後ではない。」と書いたように、我が国は戦後の荒廃期から高度成長経済期に入る。それに応じて、アメリカから夥しい経営学が導入されるようになる。企業経営は、これまでのような家族的経営ではなく、個々人を基本とした近代化を標榜するのである。同時に、従業員を年功ではなく能力によって評価し処遇するようになる。その仕組みが職能等級制度であり、今日、多くの企業が導入されている。「能力開発」という言葉も、昭和38年、伊勢丹によって初めて使われるようになる。この制度は年功序列から脱皮する目的であったが、その評価は、結局は、年功や学歴によるところが多くなり、その趣旨は失われ、大手企業はこの制度を導入しているにもかかわらず、年功から完全に脱皮できなかった。今日では特定の従業員に対して成果主義を導入し、実績を評価し処遇している。
また、長期人材開発計画(CDP:Career development Program)が導入され、従業員一人ひとりの能力に沿った育成と処遇が行われるようになるが、その導入時から特定の従業員にのみを対象としたこと、労働力の移動から企業内に十分に根付いたとは言えなかった。
・自立した従業員の育成を目指して
 バブル景気が崩壊し、各企業は相対的に高い賃金の見直しをするようになる。派遣社員等にみられる従業員の非正規化である。もう一つは、日経連にみるように、従業員を長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型に分けてそれぞれに応じた育成をするようになる。これに拍車をかけたのがエンプロイヤビリティ(employability)である。企業は従業員が転職しやすい能力を育成するが、従業員も自己啓発を行い容易に転職ができるように提唱したのである。
 今日、我々は雇用流動化の中に生きている。そこで自らの能力を育成し、発揮し、自立した職業生活を送るために、生涯教育の観点から自らを高めていかなければならないのである。
教科書/Textbook 技術教育研究会「小学校ものづくりの10の魅力」一芸社、900円
参考書・参考資料/References 細谷俊夫『技術教育概論』東大出版会,1978年
平沼高、佐々木英一、田中萬年編『熟練工養成の国際比較』ミネルバ書房、2007年
成績評価方法/Evaluation 出席点と毎回の小レポートによる。最後に提出してもらう大レポートも評価の対象となる。
履修条件/Conditions 特になし。
その他の注意/Remarks