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学部 生涯教育開発コース 選必Ⅱ2単位 春学期火3
担当教員 横山
Theory of Technial education Theory of Technical education 2
科目名 EDUED3142J 技術教育学講義 Ⅱ
対象学年 2年以上 他学部受講
時間割コード 0223441
概要/Outline 本講義は、技術教育学講義Ⅰ(秋学期)をふまえて、特殊的な問題を取り上げる。本講義で扱うテーマは、学校におけるキャリア教育(7回)、普通教育としての技術教育(工作教育も含む)の目標、内容、方法などをとりあげる。労働教育の問題も会わせて取り上げる予定である。
到達目標/Objectives キャリア教育は、小学校から大学まで一環して行う教育活動であるので、特に教職課程を専攻する学生には重要な講座である。しかし、この授業では、教職に就く学生はほとんどいないため、現在、学校で学んでいる、あるいは学んできたキャリア教育とは何かを理解していただき、その上で、自分自身のキャリア形成をどのようにすればよいかを考える機会にしていただきたいと思う。つまり、この授業は「キャリア自己教育」とでもいうべきものである。授業を始めるに当たって、このことを、まずお断りしておきたいと思う。
授業の内容/Contents
第1回:現代の職業をめぐる社会状況(第1章を参照のこと)
 経済のグローバル化が進展している。また、技術革新のスピードも速い。例えば今日では自動車の自動運転技術が研究されてきているが、それはAIと自動車開発の組み合わせの技術である。ところが、AIの進展は極めて速く、これまでの自動車の開発とは比較にならないくらいの速さと言われている。この両者が協働することによって自動運転が可能になるのである。 
このことは、これまでの職業能力がある産業分野では全く役に立たなくなることであり、また、年功などの要素はほとんど無関係であることを示している。我々は、このように進展の速い技術分野においてどのように職業能力を身に付ければよいのであろうか。また、このことによって職業生活の在り方も全く変わってくることにもなる。ここには、文系とか理系といった区別はない。
そこで、講義を始めるに当たって、まず今日の経済社会の変貌を考えてみることにする。その上で、これから、我々はこのような社会に対してどのように対応していけばよいのかを、キャリア教育を理解しつつ職業的キャリア形成の観点より検討することにする。
第2回:キャリアの意味について(第2章参照)
 学校教育におけるキャリアの定義は、アメリカ人のスーパー(Super,D.,1980)の唱えた定義がそのまま導入されている。その後、キャリアの概念が広まるにつれて、様々なキャリア論が研究されるようになった。そこで、ここでは代表的なキャリア論を紹介する。また、よく知られているシェイン(Schein,E.H.,1990 )の所論も紹介する。
 スーパーのキャリアは、人生における役割の組み合わせとその連続という人間の人生における役割から出ているが、シャインのそれは自己概念という心理学的定義である。我が国のキャリア教育は、スーパーの定義によっている。この定義にはどのような問題点があるのかを検討してみたい。
第3回:キャリア教育の展開(第2章参照)
 アメリカにおけるキャリア教育は、1970年代、急速な経済社会の変化とそれに教育が伴わなかったことに起因して、多くの若者が早期離職し、また未就職者や退学者等が顕著になったことに起因している。
そこで、当時の連邦教育局長官マーランドによって、キャリア教育が導入されることになった。これは、1977年から始まる時限立法であるキャリア教育奨励法によって、法的に整備され実施されるのである。この内容を検討してみる。さらに、マーランドは、哲学者ホワイトヘッドのいう「すべての教育はキャリア教育である」という言葉を取り上げているので、この意味も考えてみる。
我が国では、スーパーのキャリア論の影響を受けて、学校教育にキャリア教育が導入されるようになる。しかし、我が国のキャリア教育はアメリカと異なり、時限立法ではなく、学習指導要領によって行われるようになる。また、その内容は「生き方」が中心にしているため、職業観・勤労観などの価値観の育成が大きな特色となっている。この問題点はとは何かを検討してみる。
また、大学では小・中・高等学校に見られるような『手引き』はない。そこで、大学でのキャリア教育とはどういうものなのかを考えてみることにする。特に、ここではインターンシップなど検討するが、それはどうあるべきか、自らの進路を考える上にも、このことをよく考えていただきたい。少なくとも就職のためにその企業に行くのではない。自己理解の促進のために行くのである。
一回だけに終わるのではなく、様々な業種を経験していただきたいと思う。大企業に就職するにしても、インターンシップでは中小企業を経験していただきたいし、公務員になるにしても、民間企業を経験していただけばと思う。要は多様な業種の中で、多くのことを経験し、自らの可能性を確かめていただきたいと思う。
第4回:キャリア・アンカー、職業意識、職業観、職業的自己実現とは何か
 職業生活を営む上で、これらの言葉は極めて重要である。キャリア・アンカーは、シャインの唱えた自分とは何かであるかという自己概念のうちの「内的キャリア」であり、職業意識は自らのためにどう働くか(生活のためとか)であり、職業観は「誰のために働くのか」を示すものと考えている(少なくとも我々は)。特に職業観は、歴史的にはヨーロッパ中世からの働き方であり、宗教改革によって「天職](Beruf)という言葉で示されるものである。我が国にはこのような概念はなかった。つまり我が国においては、職業についての観方・考え方が育たなかった。このことを説明する。
 また、職業的自己実現は、マズローの欲求五段階説の自己実現欲求から生まれたものであるが、これは自己のために自己が仕事に没頭することを意味する。これは「自己のため」に働くのであり、他者に対する意識は存在しない。そこでこのことを、その一つ手前の「自尊欲求」(self-esteem)の観点から批判的に検討する。キャリア教育では、職業的自己実現を目標にするのであるが、本当にそれでよいのかどうか、当たり前のように考えられていることに疑問を投げかけてみたい。
第5回:進路決定と職業(第4章参照)
 我々は、学校を卒業すると同時に、自立して、つまり独立して自ら生活していかなければなら。そのためには、労働力を提供して貨幣と交換しなければならない。労働力は社会的役割を果たしていく能力でもあるが、職業とは自立のために労働力を提供して社会的役割を果たすことである。そのためには、自己理解を深めて主体的に進路決定をしなければならない。したがって、学校教育は自立のための準備教育であり、学校はその受け皿でもある。
 主体的進路決定は、学校教育でどの程度の能力や特性を習得したかによって個々人で異なることになる。それは全ての行動の第一段階である意思決定プロセスに反映することになる。この分野では、マネジメント論で早くから唱えられていたが、そのうちアメリカの心理学者であるサイモン(Simon,H.,1945)による意思決定論を応用したジェラット(Gelatt,H.B.,1962 )の所論を紹介し、これに従って、皆さんがこれからどのように職業をどのように決定すればよいかを図式化していただきたいと思う。
 なお、もし可能なら、「一般的職業適性検査(厚生労働省」「矢田部ギルフォード性格検査」、「VPI職業興味検査(Vocational Preference Inventory)」などもできればと考えている。
第6回:現代社会と職業能力(第6章参照)
 冒頭で述べておいたが、今日の技術革新、経済のグローバル化は急速に進んでいる。特にAIなどの情報関連技術は日進月歩である。このような中で、我々はどのように能力を身に付け、職業の中でいかしていけばよいのであろうか。
 これまで我が国の雇用の特徴は、定年まで同じ会社や行政組織で働くことが通常であった(「終身雇用」という言葉が定着しているが、このような紛らわしい言葉には注意していただきたい。定年まで勤務することと、生涯(死ぬまで)勤務することとは同じではないからである)、今日では、このようなことは大きく崩れており、我々はいつどこで自らの能力が役立たなくなるかを考えて、そのことに備えておかなければならない。その一つの考え方がエンプロイヤビリティ(employability)、「雇用される能力」である。つまり、我々は自立した生活を送るためには、職業を持ちながら常に能力を高めていかなければならないにである。そうしなければ、いつ、自らの能力が不要になるか分からないからである。そこでこの言葉の意味を検討してみる。
 そして、我々は職業に就くや否や、企業や行政組織は個々人に対して、仕事遂行能力を高めていく活動が待っている。これが人事管理や人的資源管理というマネジメントの一環である人材育成といわれるものである。その具体的方法が、職場外教育訓練(Off JT:Off the Job Training)であり職場内教育訓練(OJT:On the Job training)であるが、今日では、個々人が主体的に学習する自己開発(自己啓発ともいう)(self-development)ないし自己学習(self-learning)が重要視されてきている。
 そこで、皆さんが卒業後、就職すると、まず、これらの方法によって、仕事遂行が可能になるように能力を習得する(させられる)ことになるのである。学校で学んだことは基礎力であり、当然のことながら多くの場合、仕事には直接的には役立たない。そこで、自己開発にせよ自己学習にせよ、このような学習を生涯にわたって行わなければならないのである。
皆さんは教育学を専攻した学生でもあるので、就職後、このような人材育成の仕事に専門的に携わることになるかもしれないので、よく理解していただきたいと思う。
このことを学んでおくことにする。
第7回:復習とまとめ
 最後に、これまでの学んできたことを復習しておくことにしたい。特に、この授業はキャリアとキャリア教育であったので、まず、これらの言葉を十分理解していただきたいと考える。その上で、自分自身のキャリア形成を考えていただきたいと思う。
 特に我が国においては、キャリアの意味は氾濫しており誤ったキャリア論に陥りやすい。少なくともキャリアは時間的経過の中で捉えるものであり、生涯にわたるものであるので、余計にそのようになりやすい。このことからも、日本語に訳しづらいこの言葉の意味をしっかり理解していただきたいと思う。
 キャリア教育については、これは学校で行われるものである。そこで、教職課程を専攻している学生諸氏は、児童・生徒に対して行わなければならいので、キャリア教育とは何かをしっかり学んでいただきたいと思う。文部科学省では、1999年の中教審答申からおよそ10年間のうちで、その定義が三回も変わっている。自らのしっかりした考え方を身に付ていただきたいと思う。                         以上
教科書/Textbook 梶原豊、三宅章介、横山悦生『大学生のキャリア開発』同友館(2014)
参考書・参考資料/References 子どもの遊びと手の労働研究会編『子どもの「手」を育てる』ミネルヴァ書房、2007年 佐々木・田中・隈部編『技術科教育法』(1994)、横山悦生「オットー・サロモンの初期スロイド教育 ネース・少年スロイド学校における実践の到達点からみたシグネウスの影響 」『日本産業教育学会紀要』第36巻第1号, 2006年1月, 73頁-80頁。同「手工科成立過程期における日本とスウェーデンとの教育交流 手工科に与えたスロイドの影響の再評価 」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』第50巻第2号, 2004年3月, 27頁-39頁。同「スウェーデンにおける1877年改革前後のスロイド学校の実態 オットー・サロモンの著書からみえてくるもの 」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』第52巻第2号, 2006年3月, 1頁-27頁。同「オットー・サロモンによるスロイドのモデルシリーズの形成と発展」『日本産業教育学会紀要』第37巻第1号, 2007年1月, 47頁-54頁。同「オットー・サロモンのスロイド教育システムのテーゼ」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』第53巻第1号, 2006年9月, 45頁-61頁。技術・職業教育学研究室報告『技術教育学の探究』第1号 第4号の各号に掲載された関連論文。
成績評価方法/Evaluation 出席状況とまとめのレポートによる。
履修条件/Conditions
その他の注意/Remarks